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国見の家 プランはどう考える?

のファーストプランを提案しました。

によって色々と戦略は違うと思うのですが、私は当て馬的なプランから徐々に本命プランに寄せていくといった方法を取らないので、最初に提案するプランに全力を注ぎます。
なので、これが気に入ってもらえないと精神的ダメージが大きい。
そんな気持ちが通じたのか、クライアントにはファーストプランを気に入ってもらい安心しました。

さて、何もないところから建築家はどうやってプランを考えるのか?

これも建築家によって色々とアプローチが違うと思うので、あくまで私の場合ですが、今回のプランを例に取ってみます。
まず、プランを考えるに当たって大きな支配要因は敷地の持つ条件とクライアントからの要望です。


今回の敷地は準防火地区、高度地区、北側道路のほぼ9m×9m。
北側道路は幅4mと狭く、道路の反対側には地盤面が道路より1.4m高い公園があります。
公園の利用者は平日はほとんどおらず、休日はそれほど多くなありませんが子どもたちが遊んでいたりします。
南側には2階建ての家があります。

クライアント家族は夫婦と子ども3人。
クライアントからの要望は家中どこにいても家族の気配が感じられること、たくさんの居場所があること、夏に外でビールが飲みたい、キャンプ道具を置く場所が欲しいなどでした。


ではまず、敷地条件からはどう考えるか?
はじめに、前面道路が狭いことから車をバックで駐車するのに車幅ギリギリよりは広いスペースを必要とします。
これにより建物の配置がある程度決まります。
建物1階を車庫とするビルトイン車庫としてなるべく建物を北側に寄せて日照を得るという手もありますが、完全に2階リビングになることをクライアントは希望しておらず、コスト面でもビルトイン車庫は難しいので、その選択肢は無しとします。
敷地はもともと小さいのですが、建てられるスペースから考えるとこのエリアにしては結構なとなりそうです。
リビングダイニングではなく、リビングも兼ねるダイニングとすることでスペースは節約できそうです。

次に、南側に迫っている隣家をどうかわして日射を取り込むか?
太陽は無料の暖房器具。高性能なエコハウスなら晴れた冬の日中は日差しだけで十分暖かくなります。
よく観察すると南側の家は東側半分は下屋なので、この下屋の上から日射を取り込むことができそうです。
それにしても1階の床面は隣家下屋の日陰になってしまうので、下屋を超えてきた日射を取り込めるくらい床面を高くしたいところです。
北側の公園の景色が見えるように、かつ公園から見下ろされないようにしたいので、床面を高めにするのは日射と眺望、プライバシーの観点から都合が良い。
人がしゃがんで入れるくらいの床下収納庫とすればキャンプ用品の収納の問題も解決。

しかし、北側の公園への眺望と南側からの日射取得から普通に水回りの配置を考えるとどちらかが犠牲になってしまう。
そこで、ダイニングへの日射を妨げないよう浴室、洗面、洗濯室を基礎スラブ上の1階に配置して、地盤面+1.4mの高さにダイニングをスキップさせます。ここが1階。
床下収納は天井高さ1.4m以下なので、階としては算入されず。
これで北側の眺望と南からの日射を両立できる。

都合のいいことに洗濯室の上に気持ち良さそうな広いテラスもできました。
屋根がかかっているので、雨の日でもバーベキューなんかができるし、夏の夕暮れにここで飲むビールは美味しそうです。

子ども室はテラスと同じ面の浴室、洗面脱衣室の上に駐車場側にはね出して乗せます。
はね出したところは玄関ポーチや自転車置き場として機能する。
子ども室はダイニングから80cm程度しかスキップしておらず、ダイニングとひと続きの空間。
子どもが両親と一緒に寝ている間は子どもの寝室ではなくリビングとして使ってもいいかもしれない。
生活の変化に合わせて流動的に使えるのも良いです。

子ども室をかすめてを上ると2階の両親寝室。
今回はスペース節約のためウォークインクローゼットではなく、壁面いっぱいのクローゼットしました。
ウォークインクローゼットは3種の神器とか言われますが、ケースバイケースで考えたいところです。
寝室は広いので、家族全員で寝ることも可能。
階段に面してカウンターを設け、書斎やドレッサーとして使います。

ここで子ども室の上にデッドスペース発見。
放っておけば塞がれた小屋裏ですが、ここを1.5畳のお籠りスペースとします。
居場所が一つ増えました。
ついでにも仕込んでチャンバースペースとし、夏はここから寝室、子ども室、ダイニングと冷房の冷気を落としていき、エアコン1台で家全体を冷房します。

暖房は床下で決まりでしょう。
床下エアコン、もしくは基礎スラブに温水を流してコンクリートに蓄熱し、じわじわ放熱するのも好手かも。

ダイニングと寝室の2層に渡って大きな開口部があるので、ダイニング、寝室ともに光が入ってきます。
もちろん夏の高い日射はテラス上の大きな軒で遮ります。

平面的に考えながら同時に脳内では立体で立ち上がっています。
断面も同時に考えます。
一般的に思われているように平面的な間取りを考えてから立面や断面を考えて立体にしていくやり方ははっきり言って良いプランにはならないように思います。
素人でも間取りは描けそうな気がするので(笑)、家づくりを考えている人は間取りを描いてしまいそうになりますが、これは絶対にお勧めしません。
というか、お会いして最初に「間取りは描かないでください。」とお願いするほどです。

あと、〇〇の部屋は何畳とかも考えない方がいいですね。
当たり前ですが、プロは素人よりも何倍も多くの引き出しを持っています。
それらは沢山あるプロの引き出しに鍵をかけてしまうようなものです。
むしろ、ぼんやりとしたことでいいので、希望を伝えてもらって一体何が飛び出してくるのか楽しみに提案を待ってもらう方が良いです。
建築家はクライアントをびっくりさせたり、喜ばせたりするのが大好きなんです。

脱線しました。


外観です。
外観は公園の樹々を通して見たときにしっくりくる感じにしたいと思っていました。
クライアントは準防火地域だと木のは無理ですよねーとおっしゃっていましたが、実はそんなことはありません。
準防火地域だからとすぐにサイディングを貼ってしまうのは者の思考停止か勉強不足です。
(もちろん、他の手を知っていて、考えた上でのサイディングはありです。の都合もあります。)
私の設計では付加断熱を標準としているので、北総研が大臣認定を取った防火木外壁とすれば特殊な防火処理した木材を使わなくても木の外壁とすることができます。
(*他の方法もあります)

準防火地域では開口部も規制を受けます。
残念ながら防火設備として認定を受けたサッシで断熱性能が高いものは少なく価格も高い。
一つ一つのサッシにいちいち防火シャッターがつくのも鬱陶しい。
防火認定の取れている小さめのサッシはいくつか使うとして、大きなサッシは高性能なものを使いたい(そもそも大きな防火サッシはほとんどない)。
そこで、テラスに防火シャッターを設け、日射取得の主戦力であるテラスに面したサッシは非防火認定品の高性能サッシを使うことにしました。
(これは友人のSATO+さんの作品からヒントを得ました。佐藤さんありがとう。)

さらに、公園を望む北側の窓には網入りガラスを使いたくない。
色々と調べていたところ、京都の町家改修で使える大臣認定の木製防火雨戸というのを見つけました。
今まではシャッター付きのサッシを使うか、亜鉛鋼板貼りの雨戸をつけるかしかなかったのですが、この木製雨戸なら外観との相性も良いし、普通に目隠しや防犯のための雨戸としても使えます。

最後にについて。
建てたまま何も外構をしないのは、真っ裸のまま立っているようで非常に恥ずかしいものです。
しかし、悲しいことに実際には建物を建てただけで力尽きてしまうのか、この通りにもそう言った家が多く、町の印象が暗い感じになってしまっています。
せっかく公園があるのに通りには緑がない・・・。

せめてこの家は公園の緑とつなげて、いくばくかでも街並みに貢献したいとの想いから駐車場を緑化舗装とすることを提案しました。
初めてクライアントの家を訪れた時、子供たちが駐車場で水遊びをしていたのが印象に残っていて、駐車場でもあり、芝生のでもあれば、そうやって遊ぶことができるのではないかと考えました。

完成は2年後くらいの予定ですが、なかなか楽しみな仕事です。

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