十二軒丁の家
先日、「仙台いろは」というローカル情報番組で、アウトドアブランドsnow peakのショップ「ヒ・グラシ八幡」が取り上げられていました。
メインの通りから奥まっていてグーグルマップでも辿り着けないこのお店は、何を隠そう設計島建築事務所の旧アジト、ではなく旧事務所なのです。
ホームページでは「十二軒町の家」というタイトルで紹介しています。
この家はもともと私の知人のお母様のご実家でした。
もう住んでいる人もおらず、道路から奥まっている上に接道がないために再建築もできず困っていたところ、リノベOKという条件で私が借りることになったのです。
2年間のモロッコ暮らしから帰国したばかりで、事務所兼自宅にするための物件を探していた私にとっては渡りに舟でした。
そこから大工さん達の手を借りながら半セルフでリノベーションをしました。
この写真は私が住んでいた当時の姿ですが、お店になった今も、ほとんど私がリノベした時の姿のまま使ってくれています。
どのような考えでリノベしたのか?
北アフリカでの生活から日本に戻ってきたばかりの私には、日本人の生活のスタンダードが全て過剰に思えました。
モロッコ人達は必要最小限のものしか持たず、その住居には暖房もエアコンもなく、ある程度暑さ寒さをしのげれば良いという考え。
でも、ちょっと適当なモロッコ人達の方が生きる力があり、その生活は日本人よりもむしろ豊かに思えたのです。
それに対して現代の日本の住宅は自動車に例えると、スタイルやカラー、装備でステイタスを競うのと似ているように思えました。
そして、そういった価値観こそが現代の住宅における問題、さらには環境や教育をはじめとする社会問題の根っことなっているように感じました。
そもそも、自然界という枠組みの中でしか生きられない人間が、あたかもその限界から自由であるかの様に考えるその思想こそが奢りであり、現在の環境破壊を引き起こしたのでしょう。
住宅本来のシェルターの役割を満たし、時には不便なことをいくらかの努力や工夫で解消する「足るを知る家」を作ることで、現代社会の流れに棹を差してやろうと思ったのです。
ちょっと古くなったからといって、すぐに壊して新しい家を建てたり、古い町並みが味気ないマンションに変わっていくのも嫌でした。
この十二軒丁の家は、元々の土壁を残し、増築部分や屋根には段ボールでできた断熱材を使いました。
暖房は薪ストーブですが、冬はなかなか寒かった。
しかし、自分で作った薪で暖をとることで、快適さとはそれなりの労力の上に成り立っているのだと言う事がわかりました。
シェルターという機能を強化し、高気密高断熱の住宅を造るようになった今も、エネルギーをなるべく使わず、地球環境に対してローインパクトであること、という基本思想は変わっていません。
そういう意味で、この家がアウトドアシーンを牽引するブランドのショップになったことは偶然ではない様な気がします。