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大型パネルで建てる理由

私がパネル工法で建てるというと、昔の私を知っている人たちからは裏切り者とか魂を売り渡したとか言われるかもしれない。
木造を得意としている者や伝統的工法の大工からしてみると、パネル工法の印象は悪い。
事実、私もそうだった。
パネル工法と言った時の一般的なイメージは、大手プレハブ住宅メーカーの家のように工場の生産ラインでロボットなどを使い流れ作業でパネルを作り、現場に持ってきておもちゃのように組み立てると言ったものだろう。
ものづくりを標榜する作り手からすれば、人の血が通っていないような気がするものである。

先日、ウッドステーションの工場に見学に行った。
現在製作中ののパネルの作業状況を見るためである。

ウッドステーション の大型パネル製作の優れているところは、施工図がしっかりしているという事であろう。
一枚一枚のパネルの釘ピッチや胴縁の取り付け方などがすべて施工図になっている。
今回、付加断熱が絡むサッシ周りの防風透湿シートの納まりが初めてのケースだったようで、ウッドステーション 側とやりとりしながら防水性の高い貼り方を考えた。
私はスケッチを送ったのだが、それもモックアップを使ってシート貼りをしながら各工程の写真を撮ってA3数ページのマニュアルにしてあった。
今までの現場では、その場限りの対応で大工の記憶にしまい込まれ、のちに引き継げる形にはなっていなかったように思う。

先に書いたように、工場に行く前は私も大型パネルはプレハブメーカーの工場のように作られているものだと思っていた。
しかし、実際の作業風景は大工の作業場とそれほど変わらないものであった。
プレカットされた木材に耐力面材を打ち付け、サッシを取り付けてを貼り付ける。
大工が現場でやっていることを屋根の下で行っているだけのことだが、作業はマニュアル化されており、作業のしやすい環境で天候に左右されないので精度は格段に上がる。

それでは、パネル化する意味はなんなのだろう?
実際、大型パネルとすることで今までと同じように大工が現場で作業するのに比べてコストは上がってしまう。
それなりのメリットがなければ大型パネルを使う意味はない。

今回の動物病院は2世帯住宅も併用で延面積が100坪を超える。
この大きさの建物を今まで通りの工程でやるとなると上棟して屋根をかけて耐力面材を貼り、サッシを取り付けて外側の付加断熱を貼って、防風透湿シートを貼り終えるまで1ヶ月以上はかかると思われる。

それの何が問題なのか?
昔から木造住宅においては、上棟して瓦を乗せてからその重みに軸組が馴染むまで土壁を塗らないというのは当たり前であった。
しかし、現代の家の多くは土壁ではなく、柱の間に断熱材が入る。
更なる性能向上のために柱の外側に付加断熱材が貼られる場合もある。
繊維系の断熱材は水濡れ厳禁である。
大きい物件の場合、外回りが塞がれるまでに雨が一度も降らないということはまずない。
濡れた構造材の間に断熱材を入れて塞いだり、断熱材を雨に濡らしたりするとあとで大きな問題になりかねない。
使う材料の性質が変わっているのに従来通りの工程の組み方でいいわけがないのだが、未だ多くの現場でこの事があまり意識されていないのが実情だ。
一部の意識の高い工務店は、上棟後建物全体をブルーシートですっぽり覆うため、これはブルーハウスと揶揄されている。
こうしておけば構造材も断熱材も濡れずに安全なのだが、毎日作業の前にブルーシートを剥いで、その日の作業が終わった後にまたシートをかけるという作業の時間もバカにならない。
そのような作業を専門技術者である大工にしてもらうのは、時間的にも手間賃的にも勿体無い。

延べ面積100坪以上の現場ともなるとシートの上げ下げだけで半日終わってしまう。
大型パネルを使えば、建て方はおよそ3日で終わる。
しかも建て方が終わった時点でサッシがついており、防風透湿シートが貼られているため雨養生の心配がない。
絶対に濡らしてはいけない断熱材の施工品質が担保できるというわけである。

また、営業の物件という性質上、工期は短い方が良い。
今回、大型パネル化は迅速に雨の心配がない状態を作り出し、の品質確保をするという事と、営業物件における工期短縮というニーズにマッチすると判断して採用した。

副次的なものとしては、現場で発生するゴミが少なくて済む、プレカット工場やパネル工場で発生した端材はバイオマス燃料として工場の電力となると言ったメリットもある。

先ほど大型パネルはコストが高いと書いたが、養生にかかる時間やごみ処理にかかる費用などをもっと正確に算出することができれば、実は大型パネルの方がコストが安いのではないかとさえ思える。
現状では大工の人工の出し方は坪いくらと言うようにかなりアバウトで経験則によるものなので両者の比較は容易では無いのだが・・・。

ただ、10年ほど前までプレカットすら使わず、大工の伝統的手刻みで木造住宅を作ってきた身としては、そういった技術の継承や従来の上棟風景がなくなってしまうことには懸念がある。
高断熱化と大工の伝統的技術、あるいはといったものは両立できるということについては結論が出ているのだが、大型パネルと古来の大工の技術がどこで両立できるのかというところは今後も模索していきたい。

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