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オーダーキッチンとシステムキッチン

おそらく今、日本の新築住宅のは、9割9分がシステムキッチンであろう。
そういう意味では、キッチン=システムキッチンと言っていい。
システムキッチンとは何かというと、要はキッチンメーカーの用意したキャビネットと天板、設備機器を自分の家に合わせてカタログからチョイスするキッチンセットということになる。

そんな現状に反して島では、正確に数えたわけではないが3:2くらいの割合での方が多い。
本当は100%オーダーキッチン、つまり手作りのキッチンにしたいところなのだが・・・。

最近のシステムキッチンはよくできていてたいして困ることはないのだが、そこは設計者の意地というか、ものづくりに携わるものとして建材メーカーの製品をそのまま使うことに気がひけるのである。
それを言ったら便器も陶器から作れよ、という話になるが、そこはお許しを。

システムキッチンの欠点を強いて挙げるとすれば、一見便利そうに見えるキャビネットの引き出し群が実はイマイチ使いづらいことである。
私は毎日料理をする。
しかも、それは休日に趣味でする優雅な男の料理などというものではなく、家族へ日々供するための日常の料理である。
もちろん、仕事もあり、子供の面倒を見たりしながらであるので、調理中のキッチンはさながら戦場のようである。
システムキッチンの中にはシンク下のキャビネットを抜くことができないものもある。
調理中に発生するダラダラと水が滴る空袋やパッケージはすぐにゴミ箱へ入れたいのだが、シンク下にゴミ箱がなかったり、ゴミ箱が引き出しの中に入っていたりするとそれができない。
もう一つ、鍋やフライパンなどの調理器具はサッと取り出したい。
引き出しを開ける時間も勿体無いのだが、多くのシステムキッチンはそれらをコンロ下の引き出しに入れるようになっている。
要はシステムキッチンは散らかりがちなをすっきり見せ、奥様たちが優雅にお料理をする姿をイメージさせて売り込んでくるわけだが、現実はそんなに甘くはない。
私はキッチンは家の中で最も働く場所だと思っている。
次々に現れる作業に対して反射神経を研ぎ澄ませ、絶妙なタイミングで反応しなければならない。
時には右手でフライパンを揺すりながら、左手で洗い物をしなければならない時だってある。
いや、熱くなりすぎた。

つまり、キッチンは一見便利そうでキャッチーな機能よりも、もっとシンプルで直感的に使えるものが良いのではないかと思うのだ。
そして、既製品には意外とそのようなキッチンはない。
そこでオーダーキッチンである。

設計島建築事務所のオーダーキッチンは、創業した頃から埼玉の桃ノ木製作所の中山さんにお願いしている。
それには中山さんとの馴れ初めを書かなければならない。

1999年5月、私はアジア横断、アフリカ縦断のに出た。
神戸から中国の天津に向かう船でたまたま一緒に乗り合わせた日本人の一人が中山さんだった。
旅に出る前大工だったという彼とは自然と建物の話で盛り上がった。
中国についてから北京まで一緒だった。
その後、彼はモンゴルからロシアに入り、シベリア鉄道で北欧へ、そこからは自転車でヨーロッパを横断した。
その頃できたばかりの北京のインターネットカフェで作ったホットメールのアドレスで彼とは連絡を取っていた。
帰国後、彼はお兄さんの工場で修行し、ステンレスキッチンの製作所である桃ノ木製作所を立ち上げ、私も1年3ヶ月の旅を終えて帰国後しばらくして設計島建築事務所として独立した。
初めて桃ノ木製作所にキッチンをお願いしたのは「七ヶ浜の家」であった。
その後もオーダーキッチンの時は必ず彼にお願いしている。
今では彼は超有名の設計の家のキッチンや人気料理研究家の細川亜衣さんの自宅のキッチンを製作したりしている。
長い付き合いなのでこちらの意図が伝わりやすく、また、設置のためにはるばる来てもらった時に昔話や近況報告、一緒に登山に行ったりするのが楽しかったりする。
また余談が長くなってしまった。

オーダーキッチンのいいところは、自分の使い方に合わせて作り込むことも、逆に作り込まないこともできることである。
また、桃ノ木製作所のステンレスキッチンは引き出しの箱に至るまでステンレス製なので(システムキッチンのキャビネットはパーティクルボードなどが多い)耐久性が高い。
引き出しレールも耐久性の高いドイツ製のレールを使ってくれる。
天板も面材もステンレスなら汚れを気にせずガシガシ使える(お好み次第で面材を木にしたりもできる)。

特にこだわることができるのはシンクである。
オーダーキッチンのシンクは2種類あり、一つは既製品のプレスシンクを天板に溶接する方法と、もう一つはステンレスを手折りしたシンクで、こちらの方が自由度は高い。
例えば、シンクの中に洗剤やスポンジを置く場所を作ることができる。

また、設計島の最近作のではシンク奥のデッキを無くした。
通常シンクの奥には水栓金具が立つデッキと呼ばれる場所がある。
しかし、ここは洗い物をしたりすると水栓金具の周りに水が溜まり、いちいちそれを拭くのがめんどくさい。
さらにバックガード(ワークトップの立ち上がり)がない場合は、壁際のシーリングが溜まった水でカビやすくなる。
普段から自分の家のキッチンでこの部分の水を拭くのが煩わしいと思っていたところ、お施主さんも同じ意見だったことから水栓金具を壁付けにし、デッキを無くしてみた。
これはおそらくシステムキッチンではない形状だと思う。

もちろん、キャビネットを作ることもできるし、シンク下のゴミ箱を置き場をオープンにもできる。
コンロ下はスライド式の水切り棚にしたりすると、どこに何があるか一目瞭然だし、鍋類を取り出しやすい。

このように、最大公約数的なシステムキッチンに比べてオーダーキッチンは自分の調理スタイルにパーソナライズしたキッチンを作ることができるのが魅力である。
ただし、作り込みすぎ、考えすぎは手段が目的化してしまうので禁物。
楽しすぎてミイラ取りがミイラにならないように・・・。

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