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堀部安嗣氏の住宅を体感する


堀部さんの名を初めて目にしたのは1996年、雑誌CONFORT23号でのことだった。
そこに掲載されていた「南の家」は堀部さんのデビュー作とも言える住宅だが、その凛とした姿や空気感までもデザインされているところに感銘を受けた。
その後も堀部作品の実作を見ることはできなかったが、その頃から追いかけていたの一人である。

先日、その堀部作品を実際に見られるチャンスがやってきた。
日本大賞受賞者とその関係者10名限定ということで、建築知識ビルダーズ編集長の木藤さんからお誘いがあったのだ。
場所は東京都内だったが、これはなんとかして行くしか無いと奮起して行ってきた。
ついでにと思って行った東京ステーションギャラリーでのアルヴァ・アアルト展は月曜休館と肩すかしを食らったが、もしアアルト展と堀部作品を見ていたら消化不良を起して寝込んでいたかもしれない。

堀部さんと直接お会いすることができたのは、第2回エコハウス大賞の審査の時である。
その審査の最後に審査員の一人である堀部さんが会場の人たちに向けて放った言葉が印象に残っている。
「みんな、もっと真剣にやろうぜ!」
会場にいたのは、ほとんどが建築家や工務店の人たちである。
そのとき彼らはこう思ったに違いない。
「うちらだって真剣にやってるよ。」
僕もそう思った。

しかし、違ったのだ、真剣さのレベルが・・・。
今回見せてもらった堀部さんの住宅からはそのくらいの感動と衝撃を受けた。

さて、駅から歩いて会場に向かうと住宅地の一画に瓦屋根の「あれかなぁ?」という家が現れる。
奇抜さは全くない落ち着いた外観。
が新しくなければ、以前からそこにあったような佇まいである。

エントランスを入るとクロークがあり、天井の低いホールがある。
大谷石(?)敷きのホールからは互い違いに積まれた蓄熱ブロックの隙間を通してリビングが見える。
ホールから数段上がったリビングは堀部作品には珍しく吹き抜けているが、まるまる2層分吹き抜けているわけではない。
驚いたのは、南に面した大きな窓の鴨居の低さである。
背丈ほどしかないフィックスガラスの両脇に通風のための扉が付いており、その上にもう一段同じくらいのサイズのフィックス窓が重なっている。

リビングから少し南側にずれたところには一転して天井の低いダイニング。
壁に貼られたタモの羽目板のおかげで明るさが抑えられており、小さめのテーブルにソファが造り付けてある。
何ともコージーなスケール感。
堀部さん自身「僕はどちらかと言うとインドアなんです。」と言う通り、天井の低さ、囲まれた空間のサイズといい、穴蔵の中から外を眺める感じだ。

水回りは回遊動線上に配置されており、意匠や雰囲気もさることながら、生活していく上での使い勝手がよく考えられている。

2階はスキップしており、リビング吹抜けに面したレベルと、それより数段登ったレベルに分かれている。
3畳ほどの小さい畳の部屋は障子を通して柔らかく光の入り、さながら茶室の様だ。
一方寝室は勾配天井で明るく広いバルコニーへと続いている。

家の中を歩いていると、そのシークエンスの変化は移り行く風景の中を歩いているよう、あるいは小説を読み進めているような感覚である。
床レベルや天井の高さが場所によって変化していくのだが、恣意的な感じがせず実に自然に移り変わっていくのである。
建具のデザインや仕上げなども場所場所によって様々なのだが不自然な感じは全くない。
普通これだけ色々盛り込むと建築家の意図が見え見えで鬱陶しい感じがしたり、どこかで破綻したりした箇所を見つけるものなのだが、そういったスキは全くなかった。
そして、隙のないというのは往々にして鼻についたり疲れたりするものなのだが、それをまったく感じさせないというのは魔法の様である。
個人的な喩えで恐縮だが、堀部さんの設計は漫画「バガボンド」の晩年の宮本武蔵のようだと感じた。

見学中、ただただ圧倒され、打ちのめされ、見学の最後にその感想を堀部さんにぶつけてみた。
「堀部さん20年、僕は18年設計をやっているのですが、ただただ圧倒され一体自分は何をやってきたのか?と思いました」と。
そこで、堀部さんから「三浦さんは僕と近い考えを持っていると思います。」というありがたいお言葉を頂いた。
の表彰式で伊礼さんの言葉をして「足るを知る建築」と言われた時も感じたのだが、達人という人たちは見ていないようにして一瞬にして僕の考えていることを読みとっているのだ。

その後の懇親会では「とかく新しいものに飛びついてめまぐるしく移り変わるこの業界で、時の流れに耐えることができたモノへの敬意を忘れてはならない。」「こういう建築をやっている俺らはどちらかと言うとマイノリティーだけど、マイノリティーはマイノリティーとしてのプライドを持って仕事をしなければならない。」など、圧倒され少々凹んでいた僕はそれらの言葉で勇気が沸いてきました。
堀部さんありがとうございました。
もっともっと真剣にやります!

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